BSL4施設の設置場所に関するWHO勧告について、長崎大学の見解が2014年12月8日のニューストピックス「BSL-4施設の設置場所に関するWHO(世界保健機関)の見解について」に掲載された。
http://www.nagasaki-u.ac.jp/ja/about/info/news/news1659.html

 これまでもWHO勧告の解釈に関する議論がなされてきたが、今回、長崎大学はWHO担当者から「BSL-4施設が正しく建設され、適切に運営されるのであれば、都市の中心部に建設されたとしても問題ない。」との回答を得たとして、バイオ安全神話をアピールしている。

 以下に長崎大学の見解に対する疑義を記しておきたい。 

(1)WHO文書「Safety in health-care laboratories (1997)」および「Laboratory biosafety manual (2004)」はWHOの公式文書ではないので、WHO担当者からの回答が担当者の個人的見解であり、WHOの公式回答ではない可能性がある。

(2)WHO担当者の回答「BSL-4施設が正しく建設され、適切に運営されるのであれば、都市の中心部に建設されたとしても問題ない。」は、「正しく建設」の建設基準が不明であり、日本のBSL4施設に対して鵜呑みにすべきでない。
 立川断層に近接する武蔵村山市街地の狭い敷地にWHO勧告以前に設置された感染研村山庁舎の老朽化したBSL4施設は、「WHO勧告への適合」、「『官庁施設の総合耐震計画基準(2007年改訂)』および『国家機関の建築物及び付帯施設の位置、規模及び構造に関する基準(2013年改訂)』による震度6~7の首都直下地震に対する耐震性能」などに対するバックチェックが必要である。「正しく建設」の審査(バックチェック)抜きで「都市の中心部に建設されたとしても問題ない」とするWHO担当者の文言を日本のBSL4施設に対するバイオ安全神話のアピールに利用するのは詭弁である。

(3)長崎大学の見解「欧米諸国の高度封じ込め実験施設や危険度の高い実験施設を有する病院や研究所の多くが、大学構内や市街地に建設され稼働しています。WHOは、これら市街地の立地について問題にしたことはありません。」は、欧米諸国の施設に適応しても、地震・火山国でありバイオ施設規制法のない日本のBSL4施設に対しては(2)と同様に不用意な詭弁である。

(4)WHO文書「Biorisk management: Laboratory biosecurity guidance(2006)」(感染研翻訳版)に記載されている「自然のリスク」の手引き「バイオリスクとは、偶発的または意図的なVBM(防護・監視を要する重要な生物材料) の放出に関係した有害事象だけに限らない。地理的にリスクがある地域に設置されている実験施設の、封じ込めや実験施設バイオセキュリティを脅かすような、自然災害(地震、ハリケーン、洪水、津波など)もまたリスクである。こうした地域で実験室施設を建設したり維持したりする際には、自然災害でVBM が放出されたときに起こり得る被害を考慮する必要があり、(これを踏まえて)容認できるバイオリスクマネジメント規定を計画すべきである。」は地震などの自然災害におけるVBM漏出による被害を考慮する必要性を規定している。
 感染研は、市民説明会などで「漏れること無し」「漏れても安全」「近辺リスク無し」などのバイオ安全神話をアピールしているが、バイオリスクに関するWHO規定に違反するバイオ安全神話は撤回すべきである。

(5)WHO文書「Safety in health-care laboratories (1997)」および「Laboratory biosafety manual (2004)」は、文書表題「Safety in health-care laboratories」の「in」が明示する通り、研究所や病院の施設内部での感染リスク低減(安全)のためにバイオ実験施設の設置場所を規定すると理解する。しかし、WHOは人間の健康を基本的人権の一つと捉え、その達成を目的としていることを考慮すれば、施設外部の一般公衆への感染リスクの低減は、WHO文書の規定外であるとしても、施設内部での感染リスク低減よりも厳しく勧告されていると想定できる。
 この意味において、長崎大学が誤った情報であるとする「バイオ施設は人里離れた場所や離島につくるようWHOが勧告している」や「BSL-4施設の市街地への建設はWHOの勧告違反」の主張は、施設外部の一般公衆への感染リスク低減に対してWHO勧告から想定される基本的人権の表明であると理解すべきである。