首都直下地震[多摩直下地震(M=7.3、震度6弱~6強)、東京湾北部地震(M=7.3、震度6弱)]、海溝型地震(元禄型関東地震M=8.2、震度6弱)、および立川断層地震(M=7.4、震度6強~7)の発生確率が、近年、急上昇した。
 感染研村山庁舎BSL4施設は「官庁施設の総合耐震計画基準(2007年改訂)」および「国家機関の建築物及び付帯施設の位置、規模及び構造に関する基準(2013年改訂)」による下記の耐震性能が要求される。

 ① 危険物(病原菌類)を貯蔵又は使用する室(施設及びこれらに関する試験研究施設として使用する官庁施設)については、大地震後に発生する災害及びそれに引き続いて発生する可能性のある二次災害に対して、官庁施設及び周辺の安全性を確保すること。

 ② 設備機器、配管等は、大地震時の水平方向及び鉛直方向の地震力に対し、移動、転倒、破損が生じないように固定すること。

 村山庁舎BSL4施設は1981年に建設されたが、新耐震基準施行(1981年)以前の設計である。耐震改修が 2000年に行われたが、耐震工事の施工内容は不明であり、建屋各階ごとの質量・剛性分布の不均等、基礎・耐震壁の強度不足、コンクリート・鉄筋の経年劣化、建屋基礎の無数のひび割れなどが指摘されている。30年以内の発生確率が70%とされる首都直下地震などの大地震に対して規定①による周辺の安全性を確保するために、 2000年の耐震改修のバックチェックと施設建屋の耐震補強を早急に行うべきである。
 BSL4施設の安全キャビネットは4本の脚が止め金具で床に取り付けられ、病原体保管庫は側面が耐震ベルトで補強されているが、安全キャビネット、病原体保管庫、飼育棚、飼育ケージなどの設備機器は、首都直下地震などの大地震に対して規定②による固定強度が要求される。
 
 宮城県沖地震、兵庫県南部地震、東北地方太平洋沖地震によって、東北大学や神戸大学の動物実験施設は飼育棚の転倒、飼育ケージの落下、実験器材の転倒、建物の亀裂などの多大な被害を受けた。多数(数百匹)の動物がケージから逃げ出したが、幸いにして建物は倒壊を免れ、施設の扉が閉まっていたため実験動物の施設外への逃亡は防がれた。
 これらの事例から、BSL4施設が主都直下地震などの大地震で破損・倒壊すれば、飼育棚、飼育ケージ、安全キャビネット、病原体保管庫などの転倒・破損によりウイルスが付着した実験動物が近隣の人家へ逃亡することが想定される。

 1997年にはじめて感染者が発生した高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1)、2002年に突如感染者が発生し2003年に終息したSARSコロナウイルス、2001年のバイオテロに使用された炭疽菌などのレベル3病原体は、通常のインフルエンザウイルスと同様にエアロゾル感染する。
 レベル4病原体であるエボラウイルスは、高温度・高湿度の西アフリカでは安定したエアロゾルが発生しにくいので、エアロゾル感染の可能性は低いとされる。しかし、(北半球の)低温度・低湿度の冬季におけるエアロゾル感染(エボラウイルスは4°C以下で50日間生存)が深刻な脅威になる可能性が指摘されている。ちなみに、1980年に根絶宣言が出された天然痘ウイルス(レベル4)は容易にエアロゾル感染するので、近年も天然痘ウイルス兵器の疑惑情報が絶えない。米国では全人口3億人分の天然痘ワクチンが備蓄されている。
 大地震によってBSL3・BSL4施設が破損して、施設外部に漏れた保管病原体のエアロゾルが風に流され病原体が死滅する前に近隣の人家へ流入すれば、エアロゾルによるレベル3・レベル4病原体感染の危険性がある。へパフィルターはエアロゾルを100%捕捉できないし、破損の可能性もあり、エアロゾルの施設外部への常時漏出も否定できない。感染実験に使用された実験動物の排泄物中の病原体がエアロゾルとして施設外部に排出される可能性もある。
 
 村山庁舎ではホルムアルデヒド(70kg/年)などの有害化学物質が大量に使用され、施設外部へ常時排気されている。 外気へ放出された有害化学物質が風に流され、拡散による濃度低下前に近隣の人家へ流入すれば、化学物質過敏症や発癌などの健康被害をもたらす危険性がある。有害化学物質は排気して薄めるのではなく、排出ガス処理装置を設置すべきである。
 バイオ施設(村山庁舎)周辺の環境アセスメントや疫学調査の実施を法的に義務付ける必要がある。

 WHO文書「Biorisk management: Laboratory biosecurity guidance(2006)」(感染研翻訳版)に記載されている「自然のリスク」の手引き「バイオリスクとは、偶発的または意図的なVBM(防護・監視を要する重要な生物材料) の放出に関係した有害事象だけに限らない。地理的にリスクがある地域に設置されている実験施設の、封じ込めや実験施設バイオセキュリティを脅かすような、自然災害(地震、ハリケーン、洪水、津波など)もまたリスクである。こうした地域で実験室施設を建設したり維持したりする際には、自然災害でVBM が放出されたときに起こり得る被害を考慮する必要があり、(これを踏まえて)容認できるバイオリスクマネジメント規定を計画すべきである。」は地震などの自然災害におけるVBM漏出による被害を考慮する必要性を規定している。
 感染研は、感染研協議会や市民説明会などで「漏れること無し」「漏れても安全」「近辺リスク無し」などのバイオ安全神話を繰り返しアピールしているが、バイオリスクに関するWHO規定に違反するバイオ安全神話は撤回すべきである。