2023年11月20日東京新聞朝刊に掲載された感染研「エボラウイルス動物実験へ」の記事に驚いた。「感染研は11月上旬に地元住民に説明し、実験に向けた準備に着手した。」とあるが、住民説明会開催の情報を全く知らなかったので、早速、武蔵村山市と東京新聞に確認した。「地元住民に説明」とは「感染研村山庁舎施設運営連絡協議会での報告」であることが分かったので、感染研は市民説明会を開催すべきであるとの要請を市に依頼した。感染研の回答は「予定していない」とのそっけないものであった。
ところで、エボラ感染症に対するワクチンや治療薬はすでに外国で開発されており、エボラ発生現地での有効性が確認されている。治療薬の日本人に対する有効性の検証には日本人の臨床試験が必要であるとしても、エボラウイルス感染を強いる臨床試験ができるとは思えないし、有効性が確認されている治療薬に対する日本での動物実験の必要性があるとも考えられないので、動物実験の開始はP4実験装置を稼働し危険なP4ウイルスを輸入し保管していることに対するアリバイ作りではとの疑念が生ずる。百歩譲って、実験担当者の感染によって臨床試験が可能になり、日本人に対する治療薬の有効性の検証ができれば、動物実験の意義があるとするべきか?
実験担当者の感染については、感染研のグローブボックス型実験装置(P4)と同様な装置を用いて外国で行われたエボラ動物実験において、手が震えたことによる針刺し事故での感染が報告されている。日本では地震による震えもあり得る。感染研では、2023年8月、ベテラン職員が実験室内で無意識のうちに腸チフス菌に感染発症した事故が発生しており、エボラウイルスの実験室内での感染が危惧される。エボラ感染については、ヨーロッパ、アメリカなどの先進国の専門の医療機関の作業スタッフが、防護服による完全防備に加えて脱着時のマニュアルなどもそろい、事前に訓練を受けていたはずにもかかわらず感染した事実も報告されており、増殖力が非常に強い(数十個で感染が成立する)エボラウイルスの感染を完全に防ぐことの難しさが指摘されている。
エボラ感染症の初期症状はインフルエンザ症状に類似しているため、感染した実験担当者が一般病院で受診して市民に感染が拡大する事態は絶対に回避すべきであるなどの市民の懸念を受けて、武蔵村山市当局は厚労大臣と感染研所長に対して文書「国立感染症研究所村山庁舎の運営等に関する要望書」(2023年12月18日)を提出した。40年前のP4施設の隠密建設に始まり、10年前のエボラアウトブレイクにおけるP4施設でのエボラ感染検査の虚偽説明(感染検査はP4施設ではなく、P3施設でRT-PCR法によって行われた)、2023年8月に発生した実験室内での腸チフス菌感染事故に対する市民への説明責任放棄、ワクチン・治療薬の検定のためのエボラ動物実験開始に対する市民説明会の開催拒否(2023年11月)など、感染研のリスクコミュニケーションには疑念を持たざるを得ない。